鈴のふるさと 夏の夜遊び [鈴のふるさと]
夏になると大人たちは庭先や、通りに面した広庭に縁台を出して、食後の
ひとときを楽しむ。
将棋をさしたり、仕事のはかどり具合を話したり、でも女の人はあまり出てこ
ないのに、ふうちやんはいつも縁台の端っこに座り空を見ていた。
若いのに旦那さんか戦死して一人で里に帰って来たのだ。
鈴たち子供には夏休みの夜はとりわけ楽しかった。少々外にいても早く
寝なさい、なんて言う親はいなかった。
農家の前の広庭で、月の美しい夜は「影踏み」をする。じゃんけんで鬼を
決めたら「よーいどん」でいっせいに思い思いの場所に走る。
そして鬼に自分の影を踏まれたらその子が鬼になって、息も絶え絶えに逃
げまくり時のたつのも忘れた。みんながふらふらになるまで止めなかった。
そのころ鈴たち独特の遊びがあった。恐いくせに面白くて鈴は好きだった。
「ぺた」 村に初めてアイスキャンデー屋が出来るのだといって四角い箱
のような家が建った。ところが土壁を塗っただけで、工事が中断した。中に
間仕切りもなくて、一間ほどの入り口の戸を閉めると中は昼でも暗い。
そしてここは鈴たち子供にとって絶好の遊び場になった。
こくちゃんが考えた「ぺた」は、鬼以外の人はこの家に入って、思い思いの
格好で壁や地面にぺたりとへばりつく。「よおしっ」の声で鬼はそろそろと
入って戸を閉めると、ほとんど何も見えない。少し目が慣れて来ると何と
なく人の気配はわかるので、手探りでそろそろと近づいてくるのが皆にも
分かる。皆はほとんど息もしないでじっとしている。
この時の闇の世界、ただ荒壁の隙間からかすかに明りもみえて音のな
い空間は恐いくせに鈴は何だか好きで、鬼の気配を感じながら、じわっと
場所を移す。「キャー」一番小さいゆうちゃんが大声を上げ鬼につかまった。
途端にみんなはホッとして手を叩きながら月明かりの外へ飛び出していく。
夏の大イベントは「肝試し」。丘の上にある源宋寺が舞台だ。表門から
墓地を抜けて裏門まで、子供の足で七、八分だかその道のりの遠いこと。
青年団のお兄さんがおばけ役で、棒きれに白い布をつけて急に眼の前
でゆらゆらさせたり、一つ目小僧の面をつけて割烹着をきて「お化け~」
と奇妙な手つきで「おいでおいで」をしたり、敗れ提灯の蝋燭を遠くで降っ
てみせたり。
毎年出るお化けは他愛のないものと決まっているのに子供たちは恐が
り、それでも全員が参加する。
鈴が手を引いている一年生の陽子ちゃんは、そのつめが鈴の手のひらに
食い込むほどに握りしめ、表門をはいった所でもう泣いている。
鈴も頭では分かっていても、立派な大きな墓石の側を通る時は思わず
目をつぶってしまう。時折風が吹いたりすると、皆が一斉にキャーと声を
上げて走る。
源宋寺のおじゅっさんは、子供たちが神聖な墓地で遊ぶひとときを大ら
かな心で見守って、許していてくれたのだろう。
「肝試し」が終わると鈴たちは沢山のお菓子をご褒美にもらった。
戦争が終わってからの鈴の村は穏やかで、ゆったりした時が流れ子供
たちにとって、忘れることの出来ない思い出をいっぱい残してくれた。
ひとときを楽しむ。
将棋をさしたり、仕事のはかどり具合を話したり、でも女の人はあまり出てこ
ないのに、ふうちやんはいつも縁台の端っこに座り空を見ていた。
若いのに旦那さんか戦死して一人で里に帰って来たのだ。
鈴たち子供には夏休みの夜はとりわけ楽しかった。少々外にいても早く
寝なさい、なんて言う親はいなかった。
農家の前の広庭で、月の美しい夜は「影踏み」をする。じゃんけんで鬼を
決めたら「よーいどん」でいっせいに思い思いの場所に走る。
そして鬼に自分の影を踏まれたらその子が鬼になって、息も絶え絶えに逃
げまくり時のたつのも忘れた。みんながふらふらになるまで止めなかった。
そのころ鈴たち独特の遊びがあった。恐いくせに面白くて鈴は好きだった。
「ぺた」 村に初めてアイスキャンデー屋が出来るのだといって四角い箱
のような家が建った。ところが土壁を塗っただけで、工事が中断した。中に
間仕切りもなくて、一間ほどの入り口の戸を閉めると中は昼でも暗い。
そしてここは鈴たち子供にとって絶好の遊び場になった。
こくちゃんが考えた「ぺた」は、鬼以外の人はこの家に入って、思い思いの
格好で壁や地面にぺたりとへばりつく。「よおしっ」の声で鬼はそろそろと
入って戸を閉めると、ほとんど何も見えない。少し目が慣れて来ると何と
なく人の気配はわかるので、手探りでそろそろと近づいてくるのが皆にも
分かる。皆はほとんど息もしないでじっとしている。
この時の闇の世界、ただ荒壁の隙間からかすかに明りもみえて音のな
い空間は恐いくせに鈴は何だか好きで、鬼の気配を感じながら、じわっと
場所を移す。「キャー」一番小さいゆうちゃんが大声を上げ鬼につかまった。
途端にみんなはホッとして手を叩きながら月明かりの外へ飛び出していく。
夏の大イベントは「肝試し」。丘の上にある源宋寺が舞台だ。表門から
墓地を抜けて裏門まで、子供の足で七、八分だかその道のりの遠いこと。
青年団のお兄さんがおばけ役で、棒きれに白い布をつけて急に眼の前
でゆらゆらさせたり、一つ目小僧の面をつけて割烹着をきて「お化け~」
と奇妙な手つきで「おいでおいで」をしたり、敗れ提灯の蝋燭を遠くで降っ
てみせたり。
毎年出るお化けは他愛のないものと決まっているのに子供たちは恐が
り、それでも全員が参加する。
鈴が手を引いている一年生の陽子ちゃんは、そのつめが鈴の手のひらに
食い込むほどに握りしめ、表門をはいった所でもう泣いている。
鈴も頭では分かっていても、立派な大きな墓石の側を通る時は思わず
目をつぶってしまう。時折風が吹いたりすると、皆が一斉にキャーと声を
上げて走る。
源宋寺のおじゅっさんは、子供たちが神聖な墓地で遊ぶひとときを大ら
かな心で見守って、許していてくれたのだろう。
「肝試し」が終わると鈴たちは沢山のお菓子をご褒美にもらった。
戦争が終わってからの鈴の村は穏やかで、ゆったりした時が流れ子供
たちにとって、忘れることの出来ない思い出をいっぱい残してくれた。
2014-11-21 14:58
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コメント(4)
子供ってホントにいろんな遊びを考えますね。
私も肝試しとか、やりましたよ。
今は、夜に子供だけで遊ぶなんて危なくて絶対無理ですよね。
by リンさん (2014-11-22 14:56)
今の子供たちはすることがあり過ぎて大変な上に
世の中危険もいっぱい。
大らかに遊べた昔は幸せでした。
有難うございました。
by dan (2014-11-23 20:01)
遊びっていう枠で考えると
やっぱり小学生までが素直に真剣に
遊んでいたように思いますね^^
ダンボールで草すべりをしたことが
すごく楽しかったことを思い出しました✿
by みかん (2014-11-24 22:00)
子供の頃の思い出って楽しいですよね。
形は変わっても、色々工夫してその時代の
遊びを考え出すのも子供の特権です。
有難うございました。
by dan (2014-11-24 22:25)