霜月にひとり [随筆]

 九月初めから咲き継いできた秋明菊の最後の二輪が散りました。

霜月の声を聞いた途端に秋が来たようです。

 空はどこまでも高く澄み渡り、吹く風も時には冷たく通り過ぎていきます。

 一日は夫の祥月命日です。偲び偲びつつ早くも九年、随分元気になった

私ですが、年を経て彼よりもはるかに年上になってしまいました。

それでも大好きなお花をいっぱい持ってお墓へ行きました。

 毎月のことなのにやっぱりいつもと違う気がして手を合わせると様々な

感慨が胸をよぎります。

 何かある度にここに彼がいたらと何度思ったことでしょう。寄り添って歩く

同年配の二人連れが羨ましくてつい目をそらしてしまう自分を可哀そうにと

慰めている自分。

 月日を重ねても決して遠くならない夫のことを、それでいいのだと言い聞かせ

ながら、ひとりで歩いていくしかないのです。


 幸い私には二人のいい思い出が沢山あります。後ろ向きた゜と言われても

これは私の特権だと思っていつでもそこに逃げ込みます。

 そこには若かったふたり。子育てに悪戦苦闘していた頃の。単身赴任地から

電話でお互いの様子を話合った頃の。子供たちが巣立ち心おきなく好きな

趣味に没頭していた頃の。そして突然の病に倒れ、想像だにしなかった早い

別れの日までのふたりだけのわが家での一カ月。

 私の脳裏には、その時々の幸せなふたりの姿が鮮やかに甦ってきます。


 静かな霜月の夜です。叢雲に月の姿はみえません。

 





 
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コメント 2

智

自分の祖父は当月2日が命日です、めぐりあわせナンダカ思ってしまいました、笑
素直やわらかな透明感の随想、こんなふう綴られたら恋人冥利だとご主人も幸せだろうなあと。
今夜こちらは三日月が冴えてきれいです。
by (2016-11-04 21:54) 

dan

有難うございます。
ふと運命的(おおげさ)なものを感じて嬉しかったりする
私、変ですか。どこかで繋がっていたら....願望。
こちら三日月見えません。
by dan (2016-11-04 23:24) 

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