敬老の日 [エッセイ]

 黄金に実った稲田を囲むように真っ赤な彼岸花が咲いた。
 我が家は六十軒くらいのこじんまりした団地で、もう半世紀余りが過ぎ人も家も老いた。
それでもそれなりに皆さん元気で平穏な日々を有難いと思っている。
 昔はここも田舎だったが、今は歩いて十分以内に生活に必要な商店、病院はすべてある。
市の中心に出るのもバスでも二十分。シルバーさん?でも快適な日常生活は維持できる。
 それに団地の北は市街化調整区域とやらで、かなり広い田圃が残っている。
三分の一しか稲作はなくて後は休耕田。よくわからないが田圃もそう簡単には売れないらしい。
 ここがまた素敵で夕方薄暗いところに子供くらいの鷺が座っていていてギョッとしたり。
小さな鳥も沢山いるし、草花も色を添え、セミや虫の声も、季節の風も嬉しい。

 彼岸花をみていて、あれっもしかして敬老の日かもと思った。この頃の祭日は分かりにくい。
何の予定もないので近くの施設にいるSさんを訪ねようと思いついた。
 そうだ彼女は九月に八十八歳。米寿だ。
花店でお祝いの花籠を作ってもらった。
 独身で過ごし書道は県展の会員、川柳も名人クラス。それなのにお茶目で可愛い人。

 赤やピンクの薔薇に白や紫の桔梗、赤紫の竜胆も。ふわつとカスミソウを入れて、さすがプロ
私も満足、Sさんにお似合いの美しくて可愛いいプレゼントが出来た。

 突然行ったのでSさんの歓びようは大げさで、二人で涙を流して泣き笑い。
特にお花のことはきれい嬉しいと、子供のように喜んでくれた。
 彼女は末っ子なので八人の兄姉はもうだれもいない。私と同い年の姪が後見人のようなもの。
その彼女も病気がちで、前のように度々来てはくれないらしい。

 Sさんは特に病気もなく頭もしっかりしていて、話していても楽しい。
 ただ今回三か月ぶりだったのだが、あれっというほど部屋が乱雑で、花籠をどこに置くか
考えてしまった。
 病的なほどきれい好きで、銭湯に自分専用の椅子を持って行くのでみんなに笑われていた。
今度掃除しに来るね。怒るかと思いながら言ったらはっはっはと笑って、ずっと前姪が来た時
ここの職員さんと台車でごみを捨ててくれたのだと言う。
 
 そうよね。米寿だもの少しは年寄りらしいところがないとね。

 昔話をいっぱいして最後にSさんが
「ねえ昔、貴女と喧嘩して一か月も口きかなかったの覚えている?」
「覚えているよ。私が長いお詫びの手紙を書いて朝事務所の机の引き出しに入れておいたら
帰りにSさんからの手紙が私の引き出しに入っていたのよね。」
 そうそれで仲直り、喧嘩の原因は忘れたと言う。私は忘れていない。

 長い年月が過ぎてもさっと昔にかえって話せる友だちがいることは嬉しいこと。
 今度は本当に掃除しに来るからと約束して家路についた。

 楽しかったけれど少し切ない。

 それでも有意義な敬老の日だったと、Sさんのあどけない笑顔をもう一度思い出してほっこり。
 
 

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