春子さんの茶の間 その5 [短編]

  彼岸花も色褪せて本格的な秋が来た。
窓を開け放ち風を入れる時、つい鼻歌でも歌いたい気分の春子さんだ。
待ちに待った短い秋、懐かしい思い出がいっぱいの秋。
 昔ほど元気ではないけれど、この青い空を見ていると電車に乗りたいと思う。
と言っても今は「はいっ」と道連れになってくれる人もいない。友もみな老いた。
 二時ごろ郵便が来た。その字に見覚えがあってつい嬉しくなって封を切るのももどかしい。
親友の花絵さん。美人で人柄もよくて中学時代からの友である。
 性格そのままの優しいきれいな文字。二三日前にメールもしたのに手紙なんてどうしたの?

 花絵さんは恋多き人で普段は静かで、どちらかと言えば引っ込み思案なのに恋をすると
元気になるのだ。それも自分から好きになるというのはなくて、いつも声をかけられる側。
 だが彼女にとってはそれが当然と思っているようにも見える。

 中学時代のお相手は同級の優等生で勉強もスポーツも万能。背が高くてかっこいい少年だった。
しかし、この幼い恋は彼が卒業と同時に父の転勤でこの街を去ることになって終わった。
 駅まで見送りに行きたいと頼まれて春子さんも一緒に行った。
ご家族も一緒だったので、春子さんは恥ずかしくて、彼にペコリと頭をさげるのが精一杯だった
のに花絵さんは、花束なんか渡して笑顔で話していた。本当は寂しかったと思う。

 高校に入ると新しい同級生は中学の倍以上の人数になった。
夏休み前には花絵さんには複数の男子生徒から声がかかり、春子さんも相談されてやっぱり
勉強の出来そうなハンサムな彼に決めた。
 
 今でも春子さんは不思議な気がする時がある。
 春子さんは花絵さんと同い年なのに、恋というより男子に関心がなかった。
勿論声をかけられたこともなかったのだが。
 花絵さんが恋に浮かれるだけの人だったら、春子さんは決して親友にはならなかったし、
相談にも乗らなかったと思う。
 彼女は真面目で勉強もよくできた。春子さんにとっては理想で自慢の友だちだったのだ。

 高校時代の花絵さんは、今までのように彼のことをあまり話さなくなった。
そのことを春子さんも気にもしてなかったし、知りたいとも思わなかった。
 でもある時私たち仲良し三人組のひとり高子さんが言った。
「私昨日の日曜日花絵さんに誘われて白浜に行ったら、彼と彼の友だちがいて四人でボートに
乗ったのよ。びっくりした~」
「えええ!彼の友だちって同級生?大きなボートやね」
「いいえ知らない人よ、彼の友だちらしかったわ。私はその人とボートに乗ったんだから」
だったら花絵さんは彼と二人でボートに乗ったことになる。
 春子さんは腰が抜けるくらい驚いた。
 花絵さんはなんて大胆なのだろう。高校生なのに恋人と二人でボートにの乗るなんて。
ちゃんと高子さんも誘って内緒じゃないものね。
 もしかして二人は本当の恋をしているのかも。こういうことに疎い春子さんでもそう感じた。
そして春子さんではなく高子さんを誘った理由も、花絵さんの気持も手に取るようにわかった。
もはや真面目過ぎて理屈ばかり言い、恋心の分からない春子さんはお呼びでなかったのだ。
 色々あったこの恋も二人が高校卒業して、彼が県外の大学に行った時終ったと春子さんは
思っていた。

 春子さんたち三人組は地元で就職して、今までと変わりなく楽しい青春真っただ中にいた。


 






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智

ブログは書けませんと伺って、体調でも?と心配しましたが、
けれどUPされていて安心しました、笑
こちらは秋明菊のモノクロ載せてみました。

by (2018-10-06 23:01) 

dan

有難うございます。
心配かけてごめんなさい。ちょっと夏バテと
才能不足で落ち込んでいたわけです。

by dan (2018-10-07 22:58) 

リンさん

ダブルデート、青春ですね^^
恋に恋するお年頃なんて言うけど、花絵さんはどうやら本当の恋をしたようですね。

by リンさん (2018-10-08 20:28) 

dan

有難うございます。
つまらない短編だと思いながら書いています。
でも、まあいいかっ!と。涼しくなったので
頑張ってみます。
by dan (2018-10-08 22:47) 

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