初冬の庭で [随筆]

 短い秋を楽しむ間も無いままに冬の声を聞いた。
立春と聞けば心も弾むのに、一文字違うだけで立冬は何となく寂しく侘しい心地がする。

 先日剪定をして頂いた。
この職人さんに剪定をお願いするようになってもう十一年。
知人の紹介で初めて来られた日、庭を丁寧に見てから私に言った言葉が忘れられない。

「この庭を見ていると、作った人の気持ちがとてもよく分かります。愛情がいっぱいですから」
 
 四十代と思われる彼の顔を思わず見直してしまった私。本当に嬉しかった。この人なら
夫が自分で作りたかった庭を引き継いで大切にしてくれるような気がして安心した。

 朝の八時半から五時半まで黙々と作業をされるので、お茶を差し上げる時だけ話をする。

 椿、梅 さくらんぼ ウバメガシ 利休梅 百日紅 山茶花 つつじ 紫陽花 木蓮 そして松
小さい庭に、まあいっぱい。
 この上牡丹を初め鉢植えもいっぱい。残念ながら鉢物はすぐに枯れてしまった。

 ほとんどの木はこの家を建てた時からの長い年月私たち家族を癒してくれた。
世話はしないけど私も昔 蒲萄やゆすら梅がなっていた頃は一番に食べると言ってよく笑われた。

 庭の木々すべてに夫の面影が重なる。

 剪定の最後はいつも松ノ木。これが笑ってしまう。
 ヒョロヒョロで幹の根本でも直径12、3センチしかないのにくねくねと伸びている。
「何でこんな木なのかなあ」とお兄さんに聞くと
こういう風に作ったのだと言う。ここにも彼の意思が詰まっているのだと。
 可哀そうな松さんこんなに曲げられて大きくなれなかったんだ。ふふふ。
 この松に一時間はかかる。

 剪定をしてさっぱりした庭で「あらあまだ咲いていたんだ」と薄いピンク色に黄色い花芯の
山茶花を見つけてびっくりの私。
 二週間くらい前に待っていた山茶花を見つけてにこにこと庭に下りて木の下まで行って
さんざん眺めた。夫の好きな花今年も咲いたよとつい話かけた。

 その後みたこともなかった風流でない私。水遣りもしないのだから無理もないけれどね。

 そしてもう一つ石蕗の花。
 濃緑の丸い葉っぱからすくっと伸びるしっかりした茎の先に三センチほどの菊のような黄色い花が沢山集まって開く。
 冬の初めの色のない庭に灯をともしたように愛いらしい姿を見せてくれる。
これから先、梅が咲くまで花はない。
  
 でも我が庭にはもう一つ夏から咲き続けてきいる強い花がある。
 ランタナ この花だけは唯一私が植えたのだ。
もう四十年も前勤めていた会社の社長さんが苗をくれた。
 曰く「これほど世話のいらない花はない。持って帰って庭の隅にでも植えときな」
花に興味のないノラの私を見越しての言葉だ。
 なんとなく頂いて、いまではどのように植えたかも覚えてない。

 でもリビングのガラス越しに今も鮮やかな朱色の小手毬のような可愛い花を咲かせている。
その社長さんも今年旅だたれた。歳月の長さを思う。

 我が家の小さな庭もこうして眺めていると、私には胸が切なくなるほどの想いが詰まっている。
 
 これからの寂しい季節、厳しい寒い冬でも、お日様だけは暖かい日差しを届けてくれる。
 もう少し頑張っていこうかなあ! 
  早く彼に逢いたい気持ちとせめぎ合っている私がいる。
 
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リンさん

素敵なお庭なんでしょうね。
いろんな庭を見てきた職人さんが言うのだから間違いない。
それに比べて、我が家の庭はなんて殺風景かしら(笑)
by リンさん (2019-11-20 14:06) 

dan

有難うございます。
寒くなりました。リンさんはまだまだ若いのだから
庭に関心持つのは老後にしましょう。(笑)



by dan (2019-11-20 17:39) 

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