濃紫の寒あやめ咲いた [随筆]

 立春が来ても今年は寒あやめが咲かない。
あんまり毎日眺めるので恥ずかしいのかなあ。
 暖かくなり過ぎたのか。

 おお、咲きました。真っ白に霜の降りた朝一度に三輪。
何だか切なくて、しゃがみこんでしばらく見つめていました。

 遠い遠い日の彼の姿も一緒に顕れて、一瞬びくっとして少し嬉しい私。

 この花にまつわる思い出はいっぱいあり過ぎて笑ってしまった。
 すぐに写真の前に飛んで行って「咲いたよ、咲いたよ」

 「もうもっと静かにして、分かった分かった」と苦笑いの彼。

 とにかく花好きの彼は大輪の牡丹も、野に咲く小さな草花も大好き。
散歩の帰りにはいつも何か摘んできて、玄関の小さな備前焼きの花瓶にひょいと入れる。

 私も早春の草花は好きで特に、あぜ道に星を散りばめたように咲く大犬ふぐりは格別だ。

 ずっと昔この花を知らなかった彼に、お城の石垣の隙間に咲く花を見つけて、得意満面
教えた日のことが昨日のことのように思い出されて懐かしい。

 季節を巡り咲く花をいつも優しい眼差しで見つめていた彼。
 お喋り過ぎる私を本当はうるさいと思っていたのだろうに。口にしたことはなかった。

 どちらかと言えば陰気な彼のことが、自分と反対の静かさが私には魅力だったのかも。

 彼と関わった幸せな五十年余の日々を思い出すとき、その憂鬱そうな顔の眼鏡の奥の
 優しい優しい瞳を、私はいつも愛しい想いで見つめていた気がするのだ。

 待ち焦がれた寒あやめが咲いた。

 またしばらく二人の世界に入ってしまいそうな私。

 優しい春の日差しが、もうあの真っ白い霜を消してしまったのではないか。
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リンさん

冬に作あやめがあるんですね。
見てみたいなあ。
少し寒さが緩んできましたね。
これから花がたくさん咲いて、いい季節です。
早くコロナが終息して、花見に行きたいです。
by リンさん (2021-02-13 16:10) 

dan

有難うございます。
地震の東北は大変だけど当地は暖かくて、コロナもゼロで、すこし希望の持てそうな日曜です。
早く安心して花見にいきたいですね。

by dan (2021-02-14 16:03) 

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