面影草  4 [短編]

 汽車の窓から海が見え、小さな島影も初夏の心地よい風の中を飛んで行く。
今日は少し遠出をしょうと言う彼に、私は一も二もなく賛成した。
 この頃は月に幾度か会って映画や音楽を楽しみ、時にはお互いに読んだ
本の感想を話し合ったりもした。
 たまには心機一転という気持ちが二人にあったのだろう。汽車で一時間程の
お城のある街へ行くことに決めた。

 堀を巡って咲く紫や黄色の菖蒲を見ながら橋を渡り、小高い丘の上に建つ
城についた。天守閣に登ると、街を貫く大きな川とその先に海が見えた。
「お城はいいねえ。何か懐かしい気がするから不思議だよ。好きだなあ」
 彼は目を細めて遠くを見つめている。その肩越しに私も同じ思いで海を見て
いた。
 そしてこの前会った時真剣な表情で言った彼の言葉を思い出していた。
「僕たち付き合い始めてもうすぐ一年になるね。この頃僕はいつも考えている
んだ。これから僕たちの交際どのように進めて行ったらいいか。
貴女さえよかったら二人の将来のことについて真剣に考えてみませんか。
と言っても僕の気持はもう、はっきりしているのだけと゛。」
 私は驚いて彼の顔を見つめた。胸がドキドキしていた。私だって同じ気持だ
ったが、それをはっきり言葉には出来ずに
「そうですね。」と曖昧に応えた。そしていつぞやの母とのやりとりを話そうかと
思ったがそれもやめた。
「゜まあ僕たちはまだ若いのだから、そう窮屈に考えなくてもいいのかもね。」
彼は少しいらいらした様子でこの話を打ち切った。

 それから私は考え続けていた。将来のことを真剣に考えるということは結婚
を意味するのでは.....。
それなら二人の気持ちだけで決められるような簡単な話しではない。
経済的な裏付けがあって初めて成り立つのではないか。
お互い今の安月給の身ではとても考えられないことた゜。親はきっと心配する
だろう。

 少し時が過ぎて、はっきりしない私も少しは考えたのではと思った彼は城の
街へ私を誘ったのだろう。

 それなのに食事をしてもお茶を飲んでも、なんとなくしっくりこない二人がいて
折角の遠出も新しい進展なんぞなにもなかった、。 


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コメント 4

リンさん

まだ20歳なのに、気楽に付き合えないのも時代なんでしょうか。
でも結婚に経済力が必要なのは、今も同じですね。
この二人の恋はどうなるのでしょう。
雲行きが怪しくなってきましたね。
by リンさん (2016-07-09 10:43) 

dan

有難うございます。
いつも読んで下さって嬉しいです。

教えて下さい。最近皆さんのブログにniceをクリック
しても表示されないのです。二カ月前から突然に。
どこもさわった憶えもないのに。niceをクリックすると
niceを外す...と表示されます。
リンさん原因わかりますか。
突然変な相談でごめんなさい。
by dan (2016-07-09 13:58) 

リンさん

あー、私もたまにあります。そういうこと。
コメント書いたのに表示されないこともあります。
たぶん反映に時間がかかるのかな~と思います。
しばらくすると表示されていたりするんですよ。
ソネット側の問題ではないでしょうか。
by リンさん (2016-07-09 21:55) 

dan

有難うございます。
もう少し様子をみてみます。
リンさんのブログには私のniceついていると
思ってくださいね。
by dan (2016-07-09 22:33) 

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