上京して四日 令和も暮れていきます [エッセイ]

 どこまでも澄み切った透き通るように青い空。
遥かに真っ白に輝く富士山がみえます。

 四日前、いつものように快適な空の旅、環七の渋滞もなくリムジンバスは定刻息子のマンションのある駅に到着しました。
 思いもかけず娘がベンチに座っていて私を迎えてくれました。仕事のはずなのに五か月振りの
対面なので休みとつたのかなあ。少し嬉しがっている私がいます。

 それから二人で掃除やら買い物やら、彼女は私に似ずあまり喋らないので私一人がお喋り。
夜には仕事から帰って来た息子と、楽しい賑やかな嬉しい一日目でした。

 それからは老骨に鞭を打ちつつ私の独壇場。「年の割には元気だなあ」と自画自賛しつつ
働き続けて最後には倒れるのではと心配になるくらい家事全般をこなしました。

 夜お湯たっぷりのお風呂の後息子の数分のマッサージが本当に気持ちよかったのです。

 今日も午前中にと近くのスーパーへ買い出し。
師走もあと二日というのに歩いていても風も冷たくないし、まるで早春のように気持ちがいい。
 長年人間やっているけれどこんなに穏やかな師走を知りません。
 
 この調子で穏やかなお正月になりますようにと願わずにはいられません。

 私が十五歳からの親友を突然亡くして六日で一年になります。

昨年のクリスマス、やって来た私を待ち受けてくれて、いつものコースを二人でデート。
 夕方の四時三十二分駅でさよならして見送ったのが最後になりました。

 もう私が上京する意味もなくなったように感じました。
 今年も折角上京しても相手になってくれる人もいないのに、と息子に言っては
「その話はしないことになってるでしょう」
 とよく言われました。彼も私の悲しさ寂しさは十分分かっているのです。
そして、その代わりが務まるはずもないことも。

 あんなに元気で生きることに意欲もあって、楽しい余生を送っていたのに。

 それでも私は来ました。年明け早々にお墓まいりに行く約束も彼女の愛する優しい二人の
娘さんと、すでに出来ています。
 せめてお花でも手向けて「貴女がいないこの一年のこと」話したいと思っています。

 この穏やかな年の瀬二人で悠々とコーヒータイム持ちたかった。
 優しく温かい手をつなぎ合いたかった。

 私は元気な体を親に貰ったと思っています。だから貴方の分まで、彼の分まで頑張って
令和を歩こうときめました。

 小さい声で「だって私には優しい子供たちがいますから」

 風の音さえしない十二階のマンションのベランダから北に向かってとぶ飛行機の機影を
みながら。

 今年も「さくらんぼ日記」のご挨拶。一年間有難うございました。
 皆様いいお年を!!

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鈴のふるさと 学生時代 1 [鈴のふるさと]

 街に来てすぐ転校する中学校へ行った。何故か父と一緒に行くのが恥ずかしくて困った。
村の学校はニクラスだったのにここは五クラスあると聞いただけで足がすくんだ。
 そうでなくても田舎から来て勉強も随分遅れているのではと、鈴は足が重かった。
校長室には年配の女の堀本先生がいらして、
「この学校で一番厳しい先生です」と校長先生に紹介されて鈴はますます小さく縮こまった。
 でも鈴を見る先生の目は優しくて、鈴も思わずにっこり笑ってしまった。
 
 教室には男女五十余人の同級生が待ち構えていて、興味深々。この頃には鈴も朦朧としていて
何が何だか分からぬうちに、教壇の上に立たされて先生が紹介して下さった後一言いいなさいと。
 震えながら「よろしくお願いします」と小さい声で言った。
 すぐに授業が始まり、待っていた英語の先生がペラペラといったら窓際の生徒がさっと立って
窓を開けたので鈴はとうとう越しが抜けたように、椅子にへたり込んでしまった。
 
 これは大変なことになった、よりによって多分一番学力差があるだろうと思っていた英語が
初日の授業だなんて「運」が悪いのにも程があると、鈴は生きた心地がしなかった。
 それでも授業が終わると、先生が決めて下さった私担当の典子さんがすぐに席に来てくれて
 「家は近いし分からないことは何でも聞いてね」と言ってくれ鈴は初めてほっとした。
 彼女とはそれからずっと大人になってもいい関係が続いた。

 鈴が猫をかぶっていたのは一週間位で、すぐ本来のお転婆さんに戻って楽しい中学生活が
続いた。
 秋に転校したのですぐ運動会があり、その後先生に勧められてバレー部にも入った。
田舎の学校でパスくらいはしたことがあったけれど、全くの初心者なのに背が高いというだけで
 「前衛のセンターやりなさい」と言われ毎日毎日トスを上げる練習。
まるでオットセイのように鈴は黙々とトスを上げ続けた。
 
 三学期に入って鈴の学校で家庭科の研究会があり市内の先生方が大勢いらした。
その時も担任の堀本先生が「研究授業」されるので鈴たちはその日のために勉強やら、先生の
接待やら係を決めて放課後も準備に奔走した。
  
 家では父母や弟妹達もそれぞれ自分たちの居場所に慣れて、狭いながらも小さな家で明るく
楽しい毎日を過ごしていた。

 年が明けてもう春には鈴も三年生、この半年でお城があり、温泉があるこの素敵な街のことが
皆大好きになって、それぞれが夢をもって頑張るのだと鈴も張り切っていた。

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