春子さんの茶の間 その10 [短編]
梅雨入りした地方のニュースを見ながら、雨の気配もない空を見上げる。
二十数年前の地獄のような水不足を思い出して春子さんはゾクゾクっと身震いした。
退職したばかりだった春子さんを心配して全国の仕事仲間から、沢山の水を送って頂いた。
今年もちらほら節水のお願いが行政機関から聞こえてくる。
今のところこの茶の間から見える庭の木々は元気で、春子さんは散水もしていない。
まあそのうち降るでしょう。と一人住いの気楽さでボーと座っているとメールが来た。
まあ珍しい息子からだ。余程のことがない限り彼の方から連絡があることなどないので、まず
心臓がバクバク。
「私旅に出ています。」たったこれだけ。
確か今日はまだ金曜日休みでもないのにどうして? 何処へ? 何しに?
春子さんの頭の中で? がぐるぐる回る。
もともと彼は旅行好きで、ぽっと出かけることも珍しいことではない。
つい先日の土曜日も
「プロジェクト終わって、また新しいのが始まるので、ちょっと伊豆に向かっています」
と報告があったばかりなのに。
「どこにいるの?」まず居場所の確認。
「龍飛崎」
「どひゃあ青森県それも先っぽ」
天気はいいのか、風は強いか、体調は大丈夫。聞きたいことは山ほどあったのに、それっきり。
私も春夫さんも旅好きで少しのお金と時間が出来たらすぐ飛び出した。その血を引いている。
でもよく考えてみたら、彼も、もうおじさん心配する方がおかしい。可笑しくて一人で笑った。
私も東北は大好きでツアーで若い時に仲良しと三人と。
春夫さんとは行かなかったけれど息子とは義妹と二人八年前にも車で巡った。
初秋の十和田湖、奥入瀬、遠野まで四泊五日。美味しいもの食べて満足の旅だった。
そう言えばあの時息子は龍飛崎へ行きたがっていた。暗くなるからと春子さんが反対した。
どうやら今回は新幹線みたいだから、もう心配はやめた。
一昨年の冬にも、突然「八戸どすえ」と大雪の中で立っている写真が来て腰が抜けかけたっけ。
まあ独り者の気きままな人生、ひっそり落ち込んでいるよりはいいかも知れない。
音楽と読書が好きで、マンションは様々な楽器と古いレコードでいっぱい。
壁面は書棚にびっしりの本。
地震がきたら圧し潰される。と笑っている。
それでも春子さんのやっぱりいい人と結婚して欲しかったという思いは今も変わらない。
茶の間の飾り棚にある春夫さんと二人並んだ写真にふと目がいった。
彼はどう思っているのだろう。
子供たちには「自分の人生は自分で目標を持って思い通りに生きなさい」といつも言っていた。
春夫さんが今ここにいたらどんなにいいだろう。
また春子さんの呪文が始まった。
来週には梅雨入りするでしょうとテレビが報じている。息子はもう帰途についているだろうか。
二十数年前の地獄のような水不足を思い出して春子さんはゾクゾクっと身震いした。
退職したばかりだった春子さんを心配して全国の仕事仲間から、沢山の水を送って頂いた。
今年もちらほら節水のお願いが行政機関から聞こえてくる。
今のところこの茶の間から見える庭の木々は元気で、春子さんは散水もしていない。
まあそのうち降るでしょう。と一人住いの気楽さでボーと座っているとメールが来た。
まあ珍しい息子からだ。余程のことがない限り彼の方から連絡があることなどないので、まず
心臓がバクバク。
「私旅に出ています。」たったこれだけ。
確か今日はまだ金曜日休みでもないのにどうして? 何処へ? 何しに?
春子さんの頭の中で? がぐるぐる回る。
もともと彼は旅行好きで、ぽっと出かけることも珍しいことではない。
つい先日の土曜日も
「プロジェクト終わって、また新しいのが始まるので、ちょっと伊豆に向かっています」
と報告があったばかりなのに。
「どこにいるの?」まず居場所の確認。
「龍飛崎」
「どひゃあ青森県それも先っぽ」
天気はいいのか、風は強いか、体調は大丈夫。聞きたいことは山ほどあったのに、それっきり。
私も春夫さんも旅好きで少しのお金と時間が出来たらすぐ飛び出した。その血を引いている。
でもよく考えてみたら、彼も、もうおじさん心配する方がおかしい。可笑しくて一人で笑った。
私も東北は大好きでツアーで若い時に仲良しと三人と。
春夫さんとは行かなかったけれど息子とは義妹と二人八年前にも車で巡った。
初秋の十和田湖、奥入瀬、遠野まで四泊五日。美味しいもの食べて満足の旅だった。
そう言えばあの時息子は龍飛崎へ行きたがっていた。暗くなるからと春子さんが反対した。
どうやら今回は新幹線みたいだから、もう心配はやめた。
一昨年の冬にも、突然「八戸どすえ」と大雪の中で立っている写真が来て腰が抜けかけたっけ。
まあ独り者の気きままな人生、ひっそり落ち込んでいるよりはいいかも知れない。
音楽と読書が好きで、マンションは様々な楽器と古いレコードでいっぱい。
壁面は書棚にびっしりの本。
地震がきたら圧し潰される。と笑っている。
それでも春子さんのやっぱりいい人と結婚して欲しかったという思いは今も変わらない。
茶の間の飾り棚にある春夫さんと二人並んだ写真にふと目がいった。
彼はどう思っているのだろう。
子供たちには「自分の人生は自分で目標を持って思い通りに生きなさい」といつも言っていた。
春夫さんが今ここにいたらどんなにいいだろう。
また春子さんの呪文が始まった。
来週には梅雨入りするでしょうとテレビが報じている。息子はもう帰途についているだろうか。
2019-06-16 16:54
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コメント(2)
気ままにふらりと旅に出るって、憧れます。
子どもが成人しておじさんになっても、心配は尽きませんね。
by リンさん (2019-06-20 23:45)
ありがとうございます。
子供は何才になっても親にとつてはこどもですものね。自嘲をこめて。とほほ。
by dan (2019-06-21 15:52)