昭和初恋物語   都忘れの花白く   1 [昭和初恋物語]


 パスが山道にさしかかると、次々に現れるカーブに座っていても踊るように
体が揺れた。花田光代は前の座席にいる泉田千穂の背中を見ながら、不思
議な気分に襲われて、そっと隣の吉原友子を見た。彼女もじっと前を見ている
というより千穂の隣に座っている男性の背中を睨みつけているように見えた。
 その二人は話をするでもなく、紅葉が美しい窓の景色に見入っている。
 中学、高校と仲良しの三人組は、卒業後の職場は違ったが、映画に行った
り、買い物に出かけたり、旅行をしたりして青春を楽しんでいた。
 今日も紅葉が真っ盛りだという山奥の渓谷に向かう所だった。
 昨夜千穂から電話があり「急だけど明日会社の人連れて行ってもいいかな
あ」と聞いてきた。友子には事後承諾してもらうことにして「いいんじゃない四
人の方が」と光代は簡単にOkした。
 今朝バス乗り場で千穂に山部研を紹介された時、光代と友子はきょとんとし
て顔を見合わせた。二人とも会社の友人とは女性だと決めてかかっていた。
 研は「突然ですみません。僕も前から行きたいと思っていた所だったので、
泉田さんが行くと聞いて無理にお願いしたんです」と頭を下げた。千穂はにこ
にこ笑っている。「ああ、はいこちらこそよろしく」光代が言った。友子も「よろ
しく」と笑った。研はなかなかの好男子で格好いい。美人で賢くて性格のいい
千穂とはお似合いだと光代は思った。
 バスの座席には光代と友子がさっと並んで座ったので、千穂たちは当然
一緒に座ることになる。でもすぐ後ろで監視の目が光っているようでさぞ困る
だろう、光代はそう思うと可笑しくなってふっと笑った。「高校時代から千穂は
もてもてだったもんなあ、でも山部さんは恋人なのかなあ」こういうことには
まるで疎い光代の頭の中は単純だ。「もうすぐ着くね」隣の友子に声をかける
 渓谷は大勢の人で賑わっている。木々の紅葉と青い空、川は深い緑色の
水をたたえて、巨岩の底にゆったりと動かない。
 凄い! きれいだねと四人は声を上げた。石伝いに下に下りると、日だまりで
お弁当にした。研は静かな性格のようで余り喋らず、三人の写真をたくさん
撮ってくれた。いつも賑やかな光代も、三人でいる時とは勝手が違って、借り
て来た猫のように無口だった。千穂たちもはしゃぐ風もなく、ただ紅葉を満喫
しているような数時間だった。
 街に戻った時はもう夕暮れで、光代は少し心を残しながらも、気を利かした
つもりで「今日はここで解散しましょう、少し疲れたね」といった。友子がすぐ
賛成をした。千穂たちはお茶でも飲みにいくのかなあと思いながら「じゃあ」
と光代は電車乗り場にむかった。あわてて友子が小走りについてきた。
「今日はびっくりしたねえ」と友子「ホントまさか男性だとは、ごめんね私勝手
にOkしてしまって」光代は頭を下げた。「いいのよ、そこそこ楽しかったじゃ
ない」二人で笑った。そして普段はおとなしくて大きな声を出すこともない千
穂がこんな時は本当に大胆なんだから.....と二人は思った。

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リンさん

4人の恋愛模様に期待が膨らみます。
友情と恋がテーマなのかな?
先が楽しみです。
by リンさん (2012-03-27 16:21) 

dan

嬉しい。nice!だけで十分なのに、お忙しいリンさん。
あまり期待しないでください。
by dan (2012-03-27 17:34) 

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