都忘れの花白く   2 [昭和初恋物語]


 研と千穂はいつも行く喫茶店にいた。明るい映画音楽が楽しげに流れていて
若い人たちでいっぱいだ。「二人も誘えばよかったかなあ。気を悪くしてないか
しら」研が申し訳なさそうに言う。「大丈夫よ」言いながら千穂は思った。あの二
人は誘っても今日は来なかっただろう、と。
 
 千穂は入社した四月、新入社員の研修担当者だった研と出会った。二週間
の研修が終わってからも、研に誘われるまま何となく付き合って二人は少しづ
つ親しくなっていった。
 千穂は気だてがよくて、仕事もテキパキこなしたので、社内の男性達にも人
気があった。研も好青年で女性陣の憧れの人だっので、二人はお似合いの
カップルに見えた。
 渓谷行きの後、光代たち三人はよく会ったが千穂から研の事を聞いたことは
なかった。まあ、あまり関心がなかったと言うべきかもしれない。
 十二月になったある日、千穂は出張中の研から、仕事が早く終わったので今
から逢えないか、と電話があった。
 仕事が少し手間取った千穂は、時間ぎりぎりに大急ぎで会社を出ると門の所
に同期の大津涼子が立っていた。「今帰り、残業だった?」「ええ少しだけ」「これ
から予定が無ければ食事行かない」涼子に誘われ、千穂はちょっとためらった
後「ごめんなさい、今日はちょっと」と言葉を濁した。「デートなんだ」涼子は笑い
ながら「では又ね」とあっさり帰って行った。
 別に隠している訳ではなかったが、社員同士の恋愛はタフ゛ーみたいなところ
があって、研も千穂も社内では、そんな様子を見せなかったので、会社の人達
は気づいてないだろうと、千穂は思っていた。
 映画は総天然色の外国映画て「未完成交響曲」シューベルトの恋物語で美し
い音楽とともにうっとりした二時間だった。
 外に出るとさすがに風が冷たくて、年の瀬を思わせた。「今日会社出るとき大
津さんに食事誘われて....」歩きながら言う千穂に、研は知らん顔をして何も言
わない。「会社の人たち私たちの事知らないよね」「うん別に悪いことをしてる訳
でもないけど、そう吹聴することでもないからね」無口な二人はいつもこんな調
子で、あまり話も弾まない。いつも行く小さなレストランで、遅い食事をしながら
千穂は何となく物足りなさを感じていた。
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リンさん

さっき1にコメント書いたら、2がアップされていました。
さっそく読みました。
いいですね~。微妙な距離が昭和っぽいです。
by リンさん (2012-03-27 16:27) 

dan

ああ、嬉しすぎて胸どきどき、これからは
読み流してくださいね。本当に有難うございます。

by dan (2012-03-27 17:38) 

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