鈴のふるさと 学生時代 1 [鈴のふるさと]

 街に来てすぐ転校する中学校へ行った。何故か父と一緒に行くのが恥ずかしくて困った。
村の学校はニクラスだったのにここは五クラスあると聞いただけで足がすくんだ。
 そうでなくても田舎から来て勉強も随分遅れているのではと、鈴は足が重かった。
校長室には年配の女の堀本先生がいらして、
「この学校で一番厳しい先生です」と校長先生に紹介されて鈴はますます小さく縮こまった。
 でも鈴を見る先生の目は優しくて、鈴も思わずにっこり笑ってしまった。
 
 教室には男女五十余人の同級生が待ち構えていて、興味深々。この頃には鈴も朦朧としていて
何が何だか分からぬうちに、教壇の上に立たされて先生が紹介して下さった後一言いいなさいと。
 震えながら「よろしくお願いします」と小さい声で言った。
 すぐに授業が始まり、待っていた英語の先生がペラペラといったら窓際の生徒がさっと立って
窓を開けたので鈴はとうとう越しが抜けたように、椅子にへたり込んでしまった。
 
 これは大変なことになった、よりによって多分一番学力差があるだろうと思っていた英語が
初日の授業だなんて「運」が悪いのにも程があると、鈴は生きた心地がしなかった。
 それでも授業が終わると、先生が決めて下さった私担当の典子さんがすぐに席に来てくれて
 「家は近いし分からないことは何でも聞いてね」と言ってくれ鈴は初めてほっとした。
 彼女とはそれからずっと大人になってもいい関係が続いた。

 鈴が猫をかぶっていたのは一週間位で、すぐ本来のお転婆さんに戻って楽しい中学生活が
続いた。
 秋に転校したのですぐ運動会があり、その後先生に勧められてバレー部にも入った。
田舎の学校でパスくらいはしたことがあったけれど、全くの初心者なのに背が高いというだけで
 「前衛のセンターやりなさい」と言われ毎日毎日トスを上げる練習。
まるでオットセイのように鈴は黙々とトスを上げ続けた。
 
 三学期に入って鈴の学校で家庭科の研究会があり市内の先生方が大勢いらした。
その時も担任の堀本先生が「研究授業」されるので鈴たちはその日のために勉強やら、先生の
接待やら係を決めて放課後も準備に奔走した。
  
 家では父母や弟妹達もそれぞれ自分たちの居場所に慣れて、狭いながらも小さな家で明るく
楽しい毎日を過ごしていた。

 年が明けてもう春には鈴も三年生、この半年でお城があり、温泉があるこの素敵な街のことが
皆大好きになって、それぞれが夢をもって頑張るのだと鈴も張り切っていた。

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リンさん

この時代って、ひとクラスの生徒が多かったですよね。50人とは!
今は半分くらいですよ。
何はともあれ、鈴さんが早く馴染めてよかったです。
by リンさん (2019-12-21 14:01) 

dan

有難うございます。
これは昭和27年頃の話です。
隔世の感あり。
by dan (2019-12-22 22:56) 

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