春子さんの茶の間その16 [エッセイ]

 春子さんの茶の間の窓ガラスを伝って下りる雨粒がやたら大きい。
今日で三日降りつづく雨。豪雨被害のニュースがひっきりなしに流れている。
 未明には避難勧告も出た。
 全市内に出た。携帯が効いたことのない信号音で鳴り、ラジオがレベル4の避難勧告。
 避難するってどこへ。ここは川もないし崩れてくる山も崖もない。

 夜が明けて近所の人が一人二人と出てきた。
「びっくりしたねえ、でもどう考えてもここが一番安全な気がして笑えて来た」
 意見が一致してまた笑った。
 
 市や県の当局者はきっと一番安全な避難を考えてくれるのだろう。でも細かいことまでは
指示できるはずもないから最大公約数で仕切る。

 やっぱり市民一人一人が自分で責任を持つべき事柄だと少し落ちついたら、すぐ納得できるのだ。

 すっかり雨が上がって薄日さえ見えて来た窓を見ながら、春子さんいい勉強したと思う。
年を取って一人で生きて行くこれから先、何事も自分でと心に誓った大雨だった。

 おだやかに晴れた日が続くなんて絶対にない。
 晴れたり曇ったり降ったり嵐が来たり、雷鳴がとどろいたり、人の人生と同じだ。

 のんびり、焦らず、しっかり前を見据えて真っすぐ歩いて行こう。
 
 春夫さんが、きっと待っていてくれるその場所へ!
  
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コロナと大雨どちらも嫌いです [日記]

 コロナウイルスというものが朝から晩まで目から耳から入り込んできます。
 大都会ではこれと隣り合わせの生活を余儀なくされているのだから、それも仕方ないです。

 当地は日本の地図で言えば左の下の方にチョンと、静かにしております。
その上、県知事さんが毎朝コロナに関する会見して下さるので様子もよく分かります。
 「東京への仕事や遊びで出かけないで。私も出張を取りやめました」

 だから、ここのところしばらく感染者もいません。
「東京から帰省したら二週間は自宅にいて下さい」と。
 これでは里帰りもままなりません。

 少し落ち着いたところで、今度は豪雨です。

 今朝八時に携帯がけたたましく鳴って「緊急速報エリアメ--ル」というのが来ました。
初めてのことです。市内全域に土砂災害警戒区域の警戒レベル4で避難勧告がでました。

 確かに昨日から雨は降り続いて、今朝もまだ降っています。
 でも昨夜来のラジオやテレビで知った豪雨の様子とでは、余りにも違いすぎます。
 我が家は団地で近くに大きな川もないし崩れるような崖も山もありません。

 一人暮らしの私が全然心細くないのですから。

 豪雨の被害を受けられた方々に「大変でしょうが気を落とさず頑張って下さい」と祈りつつ。

 コロナも大雨もどちらも嫌いです。とつぶやいています。

  
 
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梅雨の晴れ間

 梅雨入り宣言から一週間一粒の雨もふりません。

やっと明日辺りから雨模様のようで、今日が最後のお日様とニュースが朝からノラの私に
何かしなさい。早くしなさい。とけしかけています。
 
 自分の中でやるべきことは決めているのだからうるさいなあとしかめっ面。
 この頃になって「明日の体調なんて起きてみないと分からない」と言っていた友の気持が
分かるようになりました。
  十時にはお布団をほしました。今日は体調よさそうと思いながら一休みしていると、
「ピンポーン」とチャイムがなりました。
えっ誰か来た嬉しいなあと、出てみると宅急便でした。

 コロナのせいで誰も来る人なんかいないと分かっていながらつい、飛んで出てしまう。
 
 大阪の弟から、なんだろうと開けてみると美味しそうなデザート。にんまりしてしまう。

 二つのフルーツを二層に重ねてたっぷりのゼリー。可愛い器に色とりどりで美しい。
 それも沢山。一人では食べられないよと友の顔が浮かびました。

 早速お礼の電話をしてみると弟たちが金婚記念に北海道へ行くと聞いて三月頃に、「お祝」を
少し送ったもののお礼だと言う。
 五月には行くはずだったのにコロナのせいで全く予定が立たないし、今年はもう無理なので
せめて行ったつもりのお土産替わりだとのこと。
 大笑いしながら義妹とも話して、好意を頂くことにしました。

 なんだか胸の辺りが暖かくなったきがしました。

 色々あっても皆が元気でいればいいこともあるのだと、長女としては嬉しいかぎりです。

 ああ、やることいっぱいあるのにとんだ道草を。

 皆さんコロナなんかに負けずに、梅雨の晴れ間を楽しみましょう。
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9歳になったさくらんぼ日記 [エッセイ]

 今日は青い空に所々白い雲が浮かんで澄ます。

このところ雲一つない青空が続いていました。

 家にこもってなんとなく過ごしている日々も、もう随分続いています。

今朝何気なく庭の木を見ているとさくらんぼの木が目に留まりました。

「あれっ思えば今年さくらんぼの花を見なかったきがする」よく見ると枝の先の方が

枯れているように見えました。

 枯れています。この木ももう六十年もこの庭にいるのですから。

 つくづく自分の来し方を思わずにはいられません。胸が痛くなるような切ない気持です。

 私の「さくらんぼ日記」みたいだと思いました。

 もう九歳にもなってよろよろと、思い出したように綴るブログ。

 娘に勧められ始めた頃の、あの意気込みも楽しさも元気もありません。

かと言って止めるのも残念な気がするのです。

 毎日楽しみにしているお気に入りのブログが沢山あって、元気を頂くからです。

 さくらんぼの木は枯れかかっているけれど、私はもう少し頑張ってみよう。

 だつて九年も続いてきたのだから細々でも枯らしてはいけない。

 まあ何か書くことは嫌いではないのだからと、自分に言い聞かせています。

 これからもよろしくお付き合い下さると嬉しいです。
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夏も近づく若葉の美しい季節なのに [エッセイ]

 美しい季節とはうらはらに、鬱陶しく重苦しい毎日が続いています。

籠っている家を一歩出ると若葉の香りがどこからともなく漂ってくるのに。

 楽しみに通っていたカルチャー教室ももすべて休講。

友人たちとの電話でのお喋りも種切れ。朝晩一人で行く散歩も寂しい。

 心身ともにしっかりしません。

 コロナウイルスがなくなるのはいつの日か。

たまに顔を会わせるご近所さんとも長話は禁物。寂しいですね。

 太陽の光が降り注ぎ、青い海に沿ってをごとごと走る電車に乗って終点まで行けるのは

いつになるのでしょうか。

 その日まで元気をだして笑って待ちましょう。
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公園の桜が満開になりました [エッセイ]

 澄み渡る春の空を、満開の桜の花の下に入り込んで覗くのが好きです。
 
 コロナウイルスのために鬱陶しい毎日が続いています。
 毎朝知事さんが当地のコロナ感染者の様子を報告して下さって、感染者やその関係者の
ことも発表されるので、不安もそんなに切実ではありません。
 それなのにマスクも消毒液も、トイレットペーパーさえ売り切れて、そこそこ買いだめを
している人もいるようです。
 
 私が通っているいくつかのカルチャー教室もすべて休講の通知が来ました。
 行けるところは病院だけと言う人もいますが、残念?と言うべきか私病院にも縁なし。

 で近所の年の離れた仲良しと二人で近くの公園へ桜見物に出かけました。
 歩いて十分余り昔から市内の桜の名所のひとつで有名なお寺のある小高い山です。

  昔は我が家の縁側からその桜が見えて、満開になったら見物に行ったものです。
 ところが今は家やマンションが建ち並びその山さえ見えません。

 いつもならこの時期お花見の団体でいっぱいなのに、今日はニ、三人の人影だけ。
ベンチに腰掛けて桜を仰ぎ見ます。

 そして、私はその澄んだ空の向こうに確かに夫の面影を見つけてしまいました。

  ずっとずっと昔二人でここに来た時のことが、体中に溢れてきて隣に友だちがいるのさえ
忘れてしまっていました。

 
 あの日私たちは三年に余る交際期間を経て結婚の決意をし、彼が私の両親にその報告と
許しを得るために家に来た日でした。
 離れ住んでいた私たちの逢うのは月に一度あればいい方で、彼の仕事の都合で二か月振りと
いうことも珍しくありませんでした。
 ただ毎日綴った日記のような文通は家族が呆れるほど、定期便のように届きました。 

 二人の様子を見守ってきた父母はにこにこして、父が言った言葉を今も忘れてはいません。
「二人で自分たちの描いた地図の通り、明るく真っすぐに歩いて行きなさい。若者らしく」
 もともと父大好きの私でしたが、この時の私は本当に誇らしい思いで彼の目を見ていました。

 そのあと嬉しくて二人は五キロはあるこの公園まで歩いてきたのです。
その時の写真を見ると、公園の桜の木はどれも一メートル位。そうもう半世紀も前のことだもの。

 あの時私たちの新居がここに建つなんて思ってもみなかった二人でした。
 ご縁、運命、何はともあれ今は本当に良かったと思っています。

 あれ以来桜が咲いたら町内会の花見、親戚が来たらお弁当持って、私の親友三人組でも何度か。
でも残念ながら二人で桜を見た記憶はありません。

 思い出に浸ってしまった私、ごめんなさいと心の中で謝りながら満ち足りた気持で友だちに
感謝。

 吹く風さえ心地いい桜満開の公園。
 しばらくコロナウイルスのことも忘れて。
 この桜が散って若緑の葉桜が美しくなる頃には、きっと平和な初夏が訪れますように。
 
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一期一会 早春の別れ [エッセイ]

 雲一つない空のあたりに早春の冷気を漂わせて風が吹きわたっている。

 体調も良く快適に朝の家事諸々を終えて新聞を読む。
コロナの文字があちこちにあって目障りなこと。気持まで落ち込みそう。

 そして何気なく見ていた「お悔み」欄で見つけてしまった。

 一瞬息が詰まった。胸がどきどきした。
 もう一回目を見ひらいて亡くなった人の名前を確認する。

 丁度一か月前の雨の土曜日、私は一か月に一回ある文学セミナーの会場に行った。
一月は欠席したので今年になって初めてだ。
 いつもの部屋に人の気配がなく準備されている様子もない。どうしようと思っている所へ
彼女が来たので二人で事務室に行き休講を知った。

 玄関で降りしきる雨を見ていると彼女が声をかけてくれた。
 私は二十年近く通っていたけど彼女は初めてだと言う。
お互いに自己紹介してこの人が陽子さんと知った。
 「これからどうするの。車だから送ってあげるよ」
と今知ったばかりの私に言ってくれたので驚くと同時に感激してしまった私。
 私は人見知りする方で、知らない人にこちらから声をかけることはあまりない。
もぞもぞとバス停を教えた。
 「バス停なんて....外に用事がないのなら家まで送ってあげるよ」

 陽子さん宅とは遠回りになると思うのにと思いつつ私はお言葉に甘えた。
15分ほどで着いたので、このまま有難うでは余りだと思い
「お茶でも飲んで少し休んで行きませんか。一人暮らしだから遠慮はいりませんよ」
「そう、じゃあちよっとだけ」
 あっさりと上がってくれた。

 初対面の人を家に上げるのも初めてだなあ。ふとそう思った。

 そして私は自慢のコーヒーを丁寧に入れて一番好きなカップに注いだ。
一時間くらい、家族のことなど話した。
 陽子さんが一人で喋っていたと思う。
子供は女の子二人で下の娘さんが養子をとってくれた。そのお婿さんがよく出来た人で私を
大切にしてくれるし、娘より好きで可愛いのだと嬉しそうに話してくれた。
 そして孫も女の子で二人とも優秀で有名国立大学に入ったのだと。

 話を聞きながら陽子さんは本当に今幸せなんだと、家族に囲まれた様子を想像して
私まで暖かい気持ちになれた。

 陽子さんは今日も旅行から帰って来る娘婿を、空港まで迎えに行く予定だと笑っていた。
あの日の二人とも自分たちの体調のことなど話さなかったし、陽子さんはとても元気そうだった。

 そして今日の訃報である。あれからたった一か月。

 何とも言えない気持で私は人の命、寿命というものについて考えこんでしまった。
 私くらいの年になると、やっぱりこれから先のことはいつも頭の隅っこにある。

 一期一会 今日ほどこの言葉が身に沁みたことはない。

 お悔み欄の喪主が娘婿.道郎とあるのを確かめて私の気持はすこし和んだ。

 



 
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春風でコロナを吹き飛ばせ

 わんぱく坊やが二人小さい川の岸辺で、大声で何か叫んでいます。
そろそろと近づいて柿の木の陰から耳を澄ましました。

 風吹け風吹けもっと吹け 台風くらい吹いてみろ
 コロナをあっちに吹き飛ばせ 山の向うへ吹き飛ばせ

 思わず笑いながらつい拍手をしてしまいました。

 こんな坊やでもコロナのことは分かっているのです。学校もお休み行く所もない。
大人たちはお仕事に行って、お昼ご飯もお姉ちゃんとふたりでママの作ったお弁当。

 近くのお友だちと歌うしかないのです。
 でも彼らの顔は穏やかな春の日差しにほの赤く染まって元気いっぱいです。

 こんな私も楽しみにしているすべての会の主催者から中止、休止の連絡がきました。
 
 コロナの今後については大学の先生も、テレビのコメンテイターも歯切れの悪いこと。

 桜の開花のニュースが少し元気付けてくれるけれど、花見弁当もみんなで楽しくと
いう訳にもいかないでしょう。

 楽しみに生きる目標にしてきたオリンピックにいたっては、ああどうなる?

 danの繰り言はこの辺にしてお昼は美味しいもの沢山作りましょう。
 ふふふ 呑気と言えばのんきで、これもひとつの幸せなのて゛しょうか。

 庭には白や赤やピンクの椿が咲き競い、黄色の山吹も春風に揺れています。
 いつもと変わらぬ穏やかな一人暮らしです。

 わんぱく坊やも大きな声で「さよなら」と手をふって帰って行きました。

「楽しいひと時を有難う」心のなかゆったりと広がる優しい気持を明日に続けましょう。


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鈴のふるさと 学生時代 2

 鈴が転校した中学校はお城の北、城北地区にあり文京地区で国立大学と私立大学が
隣接し、鈴が入学した高校もその隣にあった。
 そのころには鈴一家も、あの小さかった官舎から広い所に移り、しかも高校まで三分と近い。
 
 鈴はこの中学校で生涯の親友となった二人の優しい友と、巡り会った。
花絵さんと静子さん、鈴。全く性格の違う三人がどうしてこんなに仲良くなったのだろう。
 
 名前の通り美しくて賢い花絵さん。
 優しくておしゃれ、スタイル抜群の静子さん。
 「ありのまま」がモットーで自分の考えはとことん通す意地っ張りの鈴。
 何故か気があって意気投合した十五歳の三人だった。
 そして一年後揃って高校に進学した。

 高校の三年間三人は一度も同じクラスにならず、唯一体育の時間だけが一緒で顔を会わす程度。
ただ家が近かったこともあり、よく集まってお喋りしたり、映画に行ったりした。

 でも鈴の知らないところで二人は仲良くしていたらしい。

 花絵さんはきれいなだけでなく性格もよかったので、男子に人気があったらしい。
らしいと言うのは鈴はもうその正反対で男子には全く興味も関心もなかった。
 クラスの人でもほとんど名前は知らなかったほどだ。
 
 花絵さんは男子の友だちとのことは、静子さんに話していたのだ。だって鈴では話にならない。
だから鈴の知らないことも沢山あったと思う。
 

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春子さんの茶の間 その13

  窓ガラス越しの陽の光はもう春爛漫の感じ。
庭の椿も一度に咲いた。
真紅で大きめ女王様のようなのも、ちまちまと小さい藪椿も、しっとりとうつ向いている白い椿も。
 
 寒がりの春子さんには嬉しいけれど、こう一足飛びに春がきたのでは風情がない。
 
 春子さんには家事の外にやることは沢山あって、一日中退屈をすることはないけれど、
それと寂しいのとは別物だということに、ずっと前から気が付いてはいた。
 近頃特に感じる。親しい友もみな老いて「出かけよう」と誘っても「明日になってみないと」と
起きてみないと体調が分からないなどと、情けないことを言う。
 友がおかしいのではない。春子さんが元気過ぎるのだ。
 昔から元気だった。両親に感謝しなさいよとよく言われた。

 出かけると言ってもデパートをぶらついて食事してコーヒー飲んでお喋りするくらいのこと。
まあデパートでも今となっては欲しいものもないと言う。
 春子さんだってそれは同じで商店街などいつから行ってないだろう。

 考えてみれば同年配の知り合いも高齢者施設にいるので時々訪ねる。
楽しく過ごしても、帰りには落ち込んでしまう春子さんだ。

 今春子さんは毎週火曜日「源氏物語」を読む会に行く。これが今の生きがいだと言っても
過言ではない。約20名ほとんど60代から70代初め。終わって食事に行くこれが又楽しい。
 古典大好きの春子さん他にもニ、三通っている。

 ご近所さんも皆さん優しくて、ここに住むことにも大満足。
離れていても子供たちも頑張っている。
 人生は人それぞれ、運命ということもあろうが自分で切り開くことだって出来る。
 もう少し頑張ってみよう。早々と旅立って春子さんを悲嘆のどん底に落とし込んだまま
まだ迎えに来てくれない愛しい春夫さんには、今度はもう少し待ってもらうことにしょう。

 いつもの年より早く来そうな春。春子さんの茶の間に暖かな穏やかな光が満ちている。
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