つゆ草の道  4 [昭和初恋物語]

 蒸気機関車の釜焚きの青年と、紡績工場で働く少女を主人公に、青春群像を
描いた映画「裸の太陽」は素晴らしかった。
 晃と芙美は夜の道を歩きながら、興奮気味に感想を語り合った。現代の世相
自分達も含めて若者のこれからの生き方などについて話すほどに二人の考え
は不思議なほど同じ方向を見ていた。
 職場でこういう話になると「あなたの言ってることは現実的でない、理想論だ」
と笑われていた芙美は、何だか初めて自分の味方を見つけた思いで嬉しかった
 家まで送るという晃の言葉に芙美はうなづいて「私の家知っているのですか」
といたずらっぽく晃を見た。「ごめん白状します。僕県庁に勤めています。初めて
のサークルの会合で笹井さんに会って、というより熱心に聴いている貴女の目を
みて、直感的にこの人と友達になりたいと思いました」晃は少し興奮したように話
続ける。「すぐ市役所のサークル担当の友人に聞いて、住所も勤務先も、電話番
号も、そして年齢も知っています」
 芙美は立ち止って晃の顔を見た。薄々感ずいていたことだった。しかしこう正直
に言われると変な気がした。「私だけが何も知らずに佐原さんの網に引っ掛かっ
たということですね、馬鹿みたい」芙美の声が大きくなった。今までの穏やかな安
らいだ気持ちが、どこかに吹っ飛んで、少し腹も立ってきた。大げさに言えば人格
を無視されたような気もしてきた。これでは芙美の一番嫌いな侮辱のされ方では
ないか。と無理に思おうとした。
 「ごめん謝ります。僕が正々堂々と率直に言えばよかったのです。策を弄したこ
とは謝ります、本当にすみませんでした。実は最初きっと断られるだろうと思って
いたのです。それがすぐ一緒に食事してくれて僕舞い上がってしまいました。嬉し
かった、それで調子に乗ってしまいました晃は謝りながら思いだしてもうれしい、
という顔をしていた。
 そんな晃の様子をみて芙美も今更ながらにだらしない自分を思い出して、私も
悪かったのだと思った。「笹井さん今夜改めてお願いします。これからも友人とし
てお付き合いして下さいませんか。」晃は真剣なまなざしで芙美を睨みつけた。
「少し考えさせて下さい、今夜は失礼します」芙美は踵を返してすたすたと歩き出
した。そのくせ一人で帰りたくない自分がいることに気がついていた。行動とはう
らはらに胸の奥の方で暖かい何かが体中に広がって行くのを感じた。
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リンさん

いつも楽しみにしています。
設定は昭和30年代ですか?
とても誠実なお付き合いですよね。
先が楽しみです。

ところで、誤字を見つけてしまいました。
「晃」が3か所「耕」になっていましたよ^^
by リンさん (2012-02-15 17:49) 

dan

いつも有難うございます。読み返しているつもりですが晃と耕、前作と似た名前にしたこと失敗でしたね。今後気をつけます。はい30年代です。当時の映画などで
時代が分かるかなあ、と考えながら。
by dan (2012-02-15 20:15) 

ごんべ

読ませていただいてます。
たのしみ....
by ごんべ (2012-02-16 10:04) 

dan

有難うございます。多分古臭いと思われているのでは。緊張してしまいます。
by dan (2012-02-16 23:21) 

rondo

「裸の大将」・・思い出します。
丘 さとみ」さんのファンに~~。

青春時代を再びよみがえらせて楽しみにしております。 純粋なあの頃に戻りたいな・・・ナンテ。
by rondo (2012-02-17 11:50) 

dan

お元気でしたか。私も筆をかりて青春時代に
帰りたがっているのかもしれません。
コメント嬉しいです。
by dan (2012-02-17 12:02) 

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