私の駆け込み寺は? [日記]

南の方からいよいよ梅雨入りです。

その前触れのように朝からの雨です。出かける予定のない日の雨は嫌いでは

ありません。

それでもこの時期若葉を濡らして静かに降る雨は、胸の深い深いところに潜ん

でいる私の想いを容赦なく引っ張り出してしまうのです。

 一人で過ごした月日も早四年七カ月、涙くんはこの頃少し出番を控えている

ようです。でもこんな雨の日はきっと手ぐすね引いて私の様子をみている筈です。

 私がどんどん昔帰りして、そう五十余年も前の若い日にタイムスリップして思い

出という駆け込み寺に、逃げ込んでしまうのを期待して。

 そしてすぐその手に乗ってしまう私なのだから。悔しいけれど仕方なしです。

 結婚するまでの約三年、私たちは百キロくらい離れたところに住んでいました。

そしてその間、月に一回逢えたらいい方、二か月以上顔を見ないこともありました。

 後は文通、日記のようにお互いの日常を書き送りました。

 ある年の五月の終わり頃、丁度真ん中辺りの街で久し振りのデートをすることに

なりました。

 朝から爽やかに晴れて、二人で落ち着いたきれいな街を歩いて、食事をしたりお

茶を飲んだり、楽しくて今でもその時の彼の顔を思い出せそうな気がします。

 夕方になってお別れの時間が近付いた頃、急に空が暗くなり、今までの青空が消

えてポツリポツリと雨が落ち始めました。「えっどうする?傘もないのに」うろたえている

私を、かれは笑いながら見ています。そしてさっと折りたたみの雨傘を取りだしました。

なんと、天気予報が夜には雨になると言ったとかで、用意周到な彼は傘を持って来た

というのです。

 彼はちょっと尻込みする私の手を引きよせて、私たちは生れて初めて相合傘という

ものを経験しました。

婚約してからも、精神的には本当に子供、いや子供でいたかった私は、彼の気持ちな

ど考えないようにして、かたくなに自分の思いを通していました。だからこの時の印象

は強烈で、忘れられません。

 でもあの傘を彼はどこから出してきたのでしょう。不思議がる私に彼は得意気に言

いました。腰の後ろ、ベルトにぶら下げていた.....と。

 どちらかというと割におしゃれで、荷物を持つのも嫌な彼が。私は可笑しくて大笑い

しました。笑いながら多分不格好に、上着の下から覗いていたであろう傘に、一日中

気がつかなかった私自身のいい加減さにあきれていました。



 半世紀も前の思い出、今日の話では涙くんのご期待に応えるどころか笑ってしまい

ました。それでいいのかもしれません。

でも私がいつでも駆け込める場所だけは大切にしたいと思っています。

 


 



 

 
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