桜の花に浮かれたい [随筆]

 四月といえば心うきうき。なーんて思ったのはずっと昔のこと。

今は平穏な一日が続けばよしと、いかにも年寄りくさい自分が嫌になります。

 特に病気をしてから時折頭をもたげる弱気に、一番腹がたっているのは自分。

散歩道に出ると、瑠璃色ちりばめて咲くいぬふぐりや、黄色や白のタンポポ、

つくしも顔をみせています。池には鴨が親子連れでのんびりと遊んでいます。

 遠くの山は薄く霞み高い青空に飛行機雲が一筋。

 本当に春爛満、平和なこの時代に生きていることの幸せを感じずにはいら

れません。

 そうだ 、元気を出して桜が満開になったら友を誘ってお花見に行こう。

 良い気分になって家の回りの掃除をしていたら、近所の奥さんに声をかけ

られました。

「この頃あまり見掛けなかったけど、また東京へでも行ったのかと思っていた」

とのこと。私は笑って

「いいえ毎日家にいます。スーパーへ行く以外はあまり外にでないから。そう

言えば久し振りですね。」

 彼女は私より三、四歳年上だけど定年まで勤めて、三つ年上のご主人と

元気に仲良く暮らしておられます。

 私が羨ましいという前に彼女は言いました。

「いいねえ。奥さんは自分のことだけして羨ましいわ。私は足も腰も痛いのに

家のことは全部私がして主人は何もしない。ただ偉そうに命令するだけ。これは

共稼ぎの時からずっと変わらずでいい加減嫌になったわよ」

 「でも側にいてくれるだけでもいいでしょう。話し合って少し手伝ってもらったら」

私の言葉が終わらぬうちに、彼女はこう言い放ちました。

 「こんなことなら、いない方がずっといい」

 私は耳を疑いました。返す言葉も、いつもなら向きになってそんなことは.....と

つっかかる私が何も言えません。言えないのではなくて言いたくなかったのです。

  私は愛想笑いをしてその場を離れました。

 家に入って私はへたへたと座り込んでしまいました。

夫婦ってなんだろう。この年になっては一緒にいる時間もそう長くはない。冗談

だとは思うけど、夫のことを仮に一瞬でもそんなふうに思う妻がいるということが

私には衝撃的でした。

 落ち着いてくると、まあ夫婦もいろいろあるよねえ。皆がみな円満という訳でも

なかろう。と思い始めました。

 さっきの彼女だって若い時は二人でバトミントンやカラオケに行っていました。

そうだ年のせいだ。そう思うことにしました。時には人格さえも変えてしまうかも。

 年を取るということはなんと残酷なことでしょう。

 どんなに、よぼよぼでも横暴でも病気だっていい、私は夫にもっともっと側に

いて欲しかったと、改めてそう思った出来ごとでした。

 
 庭の利休梅が白い花をいっぱいいっぱい咲かせてします。

 私決めました。今年の春は心して絶対に楽しく過ごすぞ! みんな集まれ!

 あの遠い遠い昔、私たち二人のスタートも桜が満開の四月でした。




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コメント 16

みかん

そうは言っても実際にいなくなったら
やっぱり寂しいのではないのかなと思いますが
そうでもないのかしら^^;
夫婦もいろいろですね。
by みかん (2016-03-31 22:12) 

dan

有難うございます。
本当に他人のことは分からないです。
でもお互いにいつまでも大切な人でいたいですね。
by dan (2016-03-31 22:27) 

ENO

エノジーブログVol.2を開設。
宜しくお願い致します。
by ENO (2016-04-01 16:39) 

dan

有難うございます。
前のブログがなくなっていて心配していたところです。
新しい方へまた伺いますね。
by dan (2016-04-01 20:30) 

通りすがり

自分の妻だからという理由にならない理由で、虐げられつづけた人を知っています。
また、妻を裏切る夫、夫を裏切る妻もいます。
夫婦は血の繋がりがあるわけではない、良くも悪くも単なる巡りあわせの問題であり、どちらか、はたまた誰かのせいでもないんだと以前本で読み救われたことがあります。
愚痴のような文になりすみません。。。
ただ、あなたの様に思いたくても思えない「妻」もいることを頭の片隅で忘れないでください。
楽しい春が来るといいですね
by 通りすがり (2016-04-01 22:43) 

リンさん

長いこと夫婦でいると、愚痴も言いたくなるのでしょうね。
だけど伴侶を亡くした人に、
「ひとりでいいわね」と言うのは、ちょっと無神経ですよね。
by リンさん (2016-04-02 16:43) 

dan

りんさん
有難うございます。
何回も同じようなこと書いている私も、もう学習しなくては....。色々な夫婦がいるということを。(笑)
by dan (2016-04-02 16:55) 

智

danさんのご主人ホント幸せですね?笑
想い深いほど遺された時間の涙は深い澄明な泉になって枯れない、そういう恋と愛情に生きられる姿は哀しいぶんだけ綺麗です。
そういう美しさを羨ましがる人ほど泣く覚悟なんか無くて、だから無神経なことも言えちゃうんですよね、笑
ソンナカンジで色々なご夫婦がいますけど、danさんのご主人が幸せ者であることは確かだと思いますよ?

花曇りの今日、山桜を撮ってきました。
光イマイチな映りですけど気分転換に楽しんでもらえたら嬉しいです、笑
by (2016-04-02 23:40) 

ぼんぼちぼちぼち

夫婦って100組100色だと思いやす。
あっしの両親はあっしが物心ついたころからすでに憎み合っていたので、あっしはそれが当たり前だとずっと思ってやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2016-04-03 12:30) 

dan

通りすがりさん
有難うございます。そうですね、人それぞれ
夫婦もまたです。心しておきます。
by dan (2016-04-03 17:43) 

dan

智さん
有難うございます。そんなふうに言って頂けると
嬉しいけれど、多分に私のひとりよがりのところも
あるとも思えるので....。
また美しい花たちの写真楽しませて頂きます。
by dan (2016-04-03 17:49) 

dan

ぼんぼちぼちぼちさん
有難うございます。
夫婦って面白いですね。元は他人なのだから、色々あって当然なのでしょう。身近に見ているとそんなものか
と思うかもしれませんね。
勉強?になりました。
by dan (2016-04-03 17:55) 

ふる#時々覗かせてもらってます

残酷だと決めつけてしまうとそれまでな気もしますー
相手方も魔が差したのでは?御主人を亡くされた方には酷だったかも知れませんけどそう悲観的になるものでもないかと?
by ふる#時々覗かせてもらってます (2016-04-04 00:10) 

dan

有難うございます。
もう少し前向きに! 心がけます。
by dan (2016-04-04 11:32) 

智

休憩合間、気になったので再コメントですけど。

大切な人を亡くした、その人が死んで良かったねと発言したと同じ+その発言を擁護かつ正当化していると気づかないんでしょうか?

なんか論点ずれたコメントもいくつかありますけど「夫婦だから」ではなく「大切な人」だからdanさんは泣いているわけですよね?
その前提を忘れて夫婦論ぶちまけられても場所マチガエてんぞって呆れます、笑

生きる時間を寄りそって、そこには苦労もケンカもあって、それでも逃げない根性と相手を理解する努力を諦めなかったお互いは人生の戦友です。
夫婦だからって問題じゃない、そういう「大切に育てた大切な時間」の相手だから大切で、ただただ愛惜が尽きないんです。
そういうお二人であることは、このブログに綴られた随想文と息子さんたちの今ある姿から解かります。

大切な存在を亡くしたら喪失感が痛くない人なんかいません。夫婦だけじゃない、友人でも親子でも喪えば苦しいものです。
その心裡を誠実にシンプルに綴っておられるこのブログが自分は好きです、澄明な哀しみと今を生きる勇気が温かくて励まされます。

好きなブログだからシタリガオコメントにムカついて再コメントしました、笑
danさん、長文&ぶっちゃけコメントご迷惑だったら申し訳ありません。
by (2016-04-04 12:07) 

dan

有難うございます。
とても嬉しいコメントです。私の真意を理解して下さった。涙が出そうで困りました。
実は今回コメントについて、初めて少し考えました。
私の書き方が極端に感情的ではなかったのか、読んだひとに不愉快な感じを与えたのでは.....と。
そして少し気弱になっていたところです。
もういつまでもこういう「言葉」に敏感に反応するのは止めよう......と。
だから智さんのコメントは嬉しい。元気が出ました。
有難うございました。
by dan (2016-04-04 15:29) 

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