さくら追想 [随筆]

 今朝方からの春の嵐が、満開の桜の花を散らせてしまうのではと、心穏やかでは

ありません。

 雨もかなり降っていて、日曜日に見た桜並木を思い浮かべあの日行ってよかったと。

午後から雨の予報でしたが「それまでに行ってみよう」と弟夫婦がやって来たのでした。

花見に行こう! などと一人叫んでいた私ですが、それぞれの事情で手を上げる友もなく

しょんぼり、がっかり今年も近場へ一人で行ってみようかと思っていたところでした。

 花見弁当をスーパーで買って、どこへというあてもなく車で桜を探しつつ走るのです。

 夫がいた時は毎年四人で花の季節を楽しみました。海沿いの公園。山の上の一本桜。

エメラルドの海を道連れに、しまなみ海道を渡り尾道の千光寺の桜を堪能したことも。

 みんな六十代でまだまだ元気でした。全く思いつきで晴天の日を選んででかけました。

先日も車の中でその話になりお義兄さんが元気だったら、まだまだ続けられたのにと義妹

が残念そうに呟きました。

 私の頭の中に家族で行ったあちらこちらの花見の光景が浮かんできました。

 でも一番忘れられないのは、私たちの結婚の承諾を得るために夫がわが家へ来た日。

三年近く私たち二人を見ていた父母だから、反対されることはないと思いながらも不安で

特に私は、その場にいないと駄目?などと弱気なことを言って夫に睨まれたものです。

首尾は上々あっけないほどで両親の笑顔は今でもはっきりと思いだせます。

 私たちは春真っ盛りの郊外の公園に向かいました。この嬉しさをどうしたらいいのか、

歩いて歩いて、今思うとあんなに遠くまで六、七キロはあったはずです。

 桜の名所ではあったけれど、知る人ぞ知るで桜の木の下に人影はなく、なだらかな

斜面に並んだ桜の若木には、まだ初々しく見えるほのかな薄いピンクの花がゆるゆると

春の風に揺れていました。斜面を下ると優しい青い水を湛えた三つの池があり、岸辺

にも桜の木が数本花は満開でした。

 ここで二人でいっぱい写真を撮りました。今その写真を見てはあの日のことを懐かしく

思いだすのですが、あの桜の記憶以外、私何も思い出せないのです。

お弁当もお茶も、飴玉ひとつも持ってなかった飲まず食わずの二人が何を話をしたのか、

あの斜面の細長い石に長いこと二人で座っていたのに。きっと幸せすぎたのです。

 
 あの日から五十七年の月日が流れました。

今一人になった私が近場で花見をしょうか....と毎年見にいく桜の名所、こここそ昔二人が

訪ねたあの場所なのです。

 結婚して四年後私たちの家が出来ました。分譲地を決めたときこの土地に不思議な縁を

感じました。あの日、数年後にこの思い出の桜の近くに住むことになるなんて、思っても

みなかった二人です。

子供たちが小さかったころはお弁当を作ってよく出かけました。団地の毎年の花見もここで

楽しみました。 

 長い時が往き今はあの若木が大木となって枝を広げ花を咲かせ、紺碧の空をさえ隠して

しまいそうです。花見の季節には人の姿が絶えません。

 桜の花の美しさ清らかさ優しさは、季節が巡るたびに人々の心に懐かしい思い出を紡いで

いくのでしょう。
 



 
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通りすがり

本州と稚児い此所は下旬からが満開です~。先日は愚痴のコメントを残し申し訳ないでした。ランキングから来て読んだ文が当に自分に言われている様でしたから傷つきました。年が近いでしょうにみっともないことしました
by 通りすがり (2016-04-07 23:00) 

智

桜の大切な時間、温かで優しい随筆に寝る前ほっこりしました、笑
想い素直に綴られた文章は温かいです。ことに花まつわる追想は、花ひらく忍耐を超えた分だけ喜びも幸せも温かいのだろうと。

で、気になったので書いちゃいますけど自己中コメントは気にしないでイイと思いますよ?勝手な誇大解釈アレコレ書きこむ行為は「荒らし」というマナー違反ですから。
普通に、初対面イキナリ文句つけたら非常識人でしょう?それが曲解による誤解の文句であれば、相手の言葉に耳傾けていない無礼を非難されます。そうしたコミュニケーションの社会常識はWEB世界でも変わりません。

仲良くしたいなら礼儀をわきまえて互いの尊重を望むもの、それをしない人は八つ当たり用サンドバッグを求めているダケのカマッテサンです。
そんなところにdanさんはいてほしくないし、このブログを楽しんでいたいので書きこませてもらいました。
danさん、長文オセッカイ申し訳ありません。
by (2016-04-08 02:05) 

dan

通りすがりさん
有難うございます。
by dan (2016-04-08 20:54) 

dan

智さん
有難うございます。
桜をみるとつい思い出して昔を懐かしむ典型的な
ババさんになってしまいます。

いつも元気付けて下さって嬉しく思っています。
ブログに関する色々なことをよく知らないので、つい
おたおたしてしまいます。
これからもよろしくお願いいたします。
by dan (2016-04-08 21:02) 

リンさん

桜ってやはり特別ですよね。
ちょうどいい時期が少ないから、花見の計画も立てずらいですね。
今年はとうとう行けませんでした。
もっともいちばんいい時に青森にいましたから^^
by リンさん (2016-04-12 21:24) 

dan

有難うございます。
桜には何ともいえない風情があります。
花見に行くよりもっと素敵なところにいたのだから
リンさんは最高だと思います。
よかったですね。
by dan (2016-04-12 22:48) 

ぼんぼちぼちぼち

桜を観ると思い出すこて、みなそれぞれにありやすね。
やはり日本人にとって桜は特別な花でやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2016-04-16 12:38) 

dan

有難うございます。
日本人は古から桜がすきですね。
心魅かれるものがあるのでしょう。
by dan (2016-04-16 23:00) 

ひげじいさん

初めてコメントします。
素敵なブログですね。癒されました。
不思議とあたたかい気持ちになれました。
ブログって人柄が出ると思います。

文学的なことは何もわからない者ですが、読むだけで情景が浮かんできました。
そして、なんともいえない温かさを感じました。

ここに来られている方は、そんなdanさんの人柄に魅力を感じている方ばかりなのでしょうね。

自分は超現実主義でなにかを愛でるとか今まで興味なかったですが、こちらにお邪魔してたまにはそういうのもいいかなぁと思えました。ありがとうございました。

それと、なぜか自分が第二の母と慕っていた方にdanさんが重なってしまいました。
その方は俳句を詠まれる方でした。
とても感性が豊かで、お子さんもとても素敵な方でした。
同じ職場で働いていましたがとても魅力的な方でした。ご本人は病気で数年前に若くして亡くなってしまいましたが。
また会いたくなってしまいました。
ごめんない。変なこと言って。

迷惑でなければ、またコメントさせてください。

by ひげじいさん (2016-04-20 00:27) 

dan

有難うございます。
コメント今朝見つけてびっくりしました。
暖かい嬉しい言葉がいっぱいでなんだか恥ずかしい
気がします。
私はただ思ったことを綴っているた゜けですのに、それでも読んで下さった方がよかったと感じて下されば
こんな嬉しいことはありません。
また訪ねて下さい。お待ちしています。
貴方のブログにもお伺いたいです。
by dan (2016-04-23 17:49) 

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