白山吹の花の向こうに [随筆]

 ことしも白山吹の花が風にゆれて、こんな晴天の日には一際その白い花びらを

美しいと感じてしまいます。

 朝から何となく寂しくて少し落ち込んでいるのです。

 昨年の病気から早くも一年。すっかり元気になったのに、ただひとつ元通りに

ならないことがあります。気力.....あれほど元気印だったのに涙もろくなり、今まで

気にもかけなかったことにどーんと落ち込み、寂しがりやになり、明るくて男らしい

のが取り柄と自他ともに認めていた私か゜とても女らしくなってしまいました。

 鬱? それはない。

 ところがふと思い出した、入院した日が結婚記念日だったことを。前日お花をもって

お墓参りに行った時、「すぐ来て欲しいなら喜んで側に行くよ。でももう少し待ってくれ

るならそれもいい。貴方の考えにしたがいます。」私は長いことお祈りしました。

 入院中苦痛もなく、退院後に飲む薬もなく一応元気で帰ってきました。そして思った。

もう少し待ってくれることになったのだと。

 そして一年後の今、病気記念日のことばかり考えていて、結婚記念日のことはすっ

かり忘れていました。

 思いだすと懐かしく、ここ数日夢の中をさまよいずっとずっと昔に帰っていた私です。

 色とりどりのテープと蛍の光のメロディーに送られて、ゆっくり港を離れた新造船。

 青い空と藍色の日本海が美しくてただただ歩いた鳥取砂丘。

 城崎の円山川にかかる石橋に映えていた柳並木の若緑にうっとり。

 バスでガタガタ中国山地を越え、二人だけで登った人形峠。

雑木林を渡る風の音と、足元にはまだ深い雪が残っていた。はるかに望む伯耆大山

の雄姿を声もなく眺めました。自然の雄大さについ静かな二人でした。

 ふもとの奥津温泉は川岸に桜の花が満開で、優しく二人を待っていてくれました。

 明るい岡山の後楽園に親友のМさんが迎えてくれて、一年振りの再会は嬉しくて

忘れられません。

 もう五十六年も前のことを、こんなに鮮明に思い出したこともありませんでした。

 今私の思うことはたったひとつ、二人で思い出したかったと。

彼はきっと思っています。「馬鹿な夢見る夢子さんの妄想が始まった...」.と。

 私が落ち込んでいるのはそう、現実の世界に戻ったからでしょう。

 でもここに綴ったことで元気か゛でました。少しは照れくさいのを我慢しています。

 


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コメント 4

智

結婚記念日おめでとうございます。
白山吹こちらでも咲きだしました、清楚な風情が好きな花です。
そういう花たちに大切な人の想い出あることは宝物だなーとあらためて読ませて頂きました、ほんと仲良い素敵なお二人ですね?笑
さっき牡丹の漢詩を載せました、お二人の記念日にちょっと笑って頂けたら嬉しいです、笑


by (2016-04-20 22:10) 

dan

有難うございます。
いつもこのブログを呼んで下さる優しい目を感じて
嬉しいです。
恥ずかしながら思い出の中に埋没していい気になるのは私の病気です。でもこれ死ぬまで治らないでしょう。
by dan (2016-04-21 15:54) 

リンさん

結婚した時のことを、こんなに鮮明に憶えているなんて、なんだか羨ましいです。
つつじも咲いて、いい季節になりました。
どうかお元気でお過ごしください。
by リンさん (2016-04-23 12:42) 

dan

有難うございます。
ゴールデンウイークは花を訪ねて楽しい所へ
いきたいですね。
また東京で過ごすことになりそうです。
by dan (2016-04-23 20:54) 

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