いとしの雨男到来 [エッセイ]

 三連休と年休を交えて少しゆっくり出来そうだと、娘夫婦が帰ってくることに

なりました。

 婿殿が一緒というのは珍しく、あれこれ計画を立てて楽しみにしていました。

ただ心配なのは滞在予定の一週間、天気予報は台風も含めて一日を除いて

雨と曇りのマークです。

 つい笑ってしまう私、何しろ彼は自他共に認める雨男。私が上京しても彼が

一緒に行く日は大体雨。私が大大お天気ばあさんなのでせいぜい曇り。

 
 そんな彼がたった一日の晴れの日に、昼前二人で帰ってきました。

ところがわが家へ帰る前に駅からレトロな鍋焼きうどんを食べに繁華街に

直行するというのです。

 ここの鍋焼きうどんはガイドブックでも人気で、無くなり次第店が閉まります。

 六十年くらい前からあって私も若い頃はよく行ったものです。今まで息子も

娘も帰省の度に何度かいったのですが、十二時半にはもう閉まっていて残念

がっていました。

 今回は間にあった、まず第一の目的は達成したとご機嫌で帰ってきました。

 帰省中にレンタカーを借りて高知方面への一泊旅行を予定していました。

その日がどんぴしゃり台風が来る日。前日は天気予報とにらめっこ、台風の

速度に合わせてせめて時間の調節をと思っても駄目で、夕方に宿を、夜中に

レンタカーをキャンセルしました。

 高知の雨台風はかなり凄い様子でこれならやっぱり行くのは無理だったと

諦めがついた三人です。

二人はそれでもバスで繁華街にでかけて路面電車にのったりミニレンタカーで

市内をぶらぶらしたようです。

出かける時「お母さんも一緒に」と言ってくれたけど私は言下に「ノーサンキュー」

 後で考えて、彼は殆ど初めての土地、娘も大学進学と同時にここを出てもう

三十年余り、すっかり変わった街は不案内だったろうにと優しくない自分に嫌気が

さした私です。でも楽しかったと元気に帰って来た二人をみて少しほっとしました。

 次の日も雨、婿殿が敬老の日だからお母さんにパスタを作ってあけ゜るけど食べ

ますか。というので喜んでと言うと、一人でスーパーへ行って材料を買ってきました。

 家にもあるのになあと思うものもあったけど、娘が彼流にさせたら、ということで

黙っていました。そしてお昼には美味しいパスタをご馳走になりました。

 翌日もまた雨。じっとしていられない彼が、港の近くに古民家を利用した鯛飯屋が

あるとスマホで見つけて、予約でいっぱいの所滑り込みで一時半が取れたとのこと。

弟夫婦も誘って行きました。

 私も弟たちも全然知らなかったのですが、昔のまま手も加えずなかなか風情の

ある家で、肝心の鯛めしも美味しくて、見つけた婿殿はえらく感激していました。

 こう雨に降られて何処へも行けぬのはどう考えても可哀そうと、当地の温泉に

一泊することにしました。

 ここは古い温泉で、夜遅くまで商店街の店が開いていて、ゆかた姿の泊まり客が

下駄で散策できる、日本でも数すくない温泉街だと私は思っています。


 わが家からタクシーで十分あまり。ちょっと素敵な宿を奮発しました。

 宿の外観も、従業員の態度も、部屋も料理もみんな素晴らしくて、婿殿は大満足

の様子で私もほっとしました。

 温泉街をぶらぶらして、古い神社の長い石段を上りお参りして、振り返れば遥か

西の空に沈む夕日が見えました。灰色の雲の中からやっと姿を見せたのです。


 雨に降りこめられた六日間でしたが、婿殿は「本当に楽しかった又来ます」仕事

の都合もあるのでと、娘より一足先に帰って行きました。

 二日後 娘を送って出た玄関で思わず二人が顔を見合わせました。

昨日まで蕾だった秋明菊が三輪まっ白い花を開いていました。


  「少しは気疲れもしたけれど楽しかったなあ。貴方も一緒だったらよかったのに」

 次の日、久し振りに陽のあたるリビングで私は夫の写真に呟きました。

 
 

 




 
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