青春 人生花の時 そして回想 1 [エッセイ]

 私には中学二年から今に続く親愛なる友が二人います。自称三人娘?

結婚するまで働く職場は違っても、いつも行動を共にしていました。

 三人とも旅が好きで、年一回は二泊三日の旅を、季節ごとに花見、紅葉狩り

島巡り、時には凍った滝を震えながら見に行ったこともありました。

 そのころのエピソードで三人揃うと必ず出る話。

私は長女、Мさんは二人姉妹の姉、そしてHさんは末っ子。

 そのころ仕事が終わると誘い合わせてよく喫茶店に行きました。四十円の

コーヒー一杯で二時間はねばりました。

 映画や音楽の話、洋服や靴やバックなどを買う計画、職場のこと、話題は

尽きることはありません。

 そしていつか、いつも一緒に居たいという願望から、三人で暮らしたいと

思うようになりました。

 そこから夢のような話が具体的になり、そのころ出来たばかりの薄いピンクの

三階建てのアパートで同居しようということになりました。

 それから家賃はどうする、生活費は、家具は、カーテンは、三人の家事の分担はと

それぞれの家や、昼休みの公園で着々と計画は進んでいきました。

本当に嬉しくて楽しくて。 幸せいっぱい夢心地でした。

 そしてとうとう今夜はそれぞれの親の許可をもらって来るところまで漕ぎつけました。

 その夜私は得意満面、とうとうと私たちの計画を父母に話しました。

父が言いました。

 「貴女はこの家が嫌なのか、祖父母や弟妹たちとこんなに楽しく暮らしていると

いうのに。何か不満でもあるのかな。豊ではないけれど暖かくいい家庭だと私は

思うんだがなあ。」

 私は父の顔を真っすぐに見ました。笑っている優しい目の奥に厳しいもう一つの

目を見たような気がしました。

 私は何にも言えませんでした。照れ隠しに少し笑っていとも簡単にこの話を引っ込め

ました。

 翌日冴えない顔の三人が喫茶店に揃いました。

 Мさんはまず母親に話したら、全然本気で聞いてくれなくて

「お父さんには黙っていてあげるから馬鹿なこと考えるのは止めなさい。」

と軽くあしらわれたとべそをかいていました。

 Fさんはどうしても話出せなくて、一晩中もんもんとしたと。

 三人は顔を見合わせて笑ってしまいました。考えてみれば本当に他愛ない話で何故

あれほど熱中して夢のような夢を見たのだろうかと、少し恥ずかしい気さえしました。

 「机上の空論」まさしくそのもの。でもあんなに楽しいひと時はなかったと半世紀

以上過ぎた今も、三人寄るとこの話は必ず出て大笑いになるのです。

 
 恋をしたり、失恋したり、私以外は花嫁修業にも精出して結婚するまでの数年間は

本当に楽しく逞しく青春を謳歌した三人でした。

 

 




 




nice!(4)  コメント(2) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。